えらく間が空いてしまいましたが、叩き売りの「ネットワークキャプチャBOX」DNT-888Lが面白いのつづきです。
前の記事で書いたとおり、
◇デジタル放送非対応(アナログチューナしか積んでない)
◇HD非対応(SDのみ)
◇クライアントソフトがVista非対応(メーカーは対応を断念)
◇コピーコントロール非対応(ロケフリみたくDVDプレイヤー/CS/CATVなどはつなげない)
...と、ネットワークビデオボックスとしてはイマイチ感が否めないカノープスDNT-888Lですが(それゆえ叩き売られたんですが)、この機械のキモは「入力されたアナログの映像&音声信号を、MPEG2に変換してHTTPに乗せるだけ」という極端なシンプルさにあります。
実際、メーカーも発売時のプレスリリースで次のように言っています。
「DNT-888L」はスタンドアローンでhttpサーバーとして動作しますので、理論的にはOSに依存しません。一度設定を行えば、Webブラウザを使用でき、MPEG2ファイルが再生できる環境であれば、ネットワーク経由でTV視聴が可能です(※2)。
「※2」という注意書きに何が書いてあるかと言うと、「付属ソフトウェア以外でネットワーク環境での視聴や操作は動作保証外となります」というお約束の注意書きなんですが、ともかくこのおかげで「クライアントソフトがVista非対応」というのは別にどうでもよくなります。オープンソースのVLCというソフトを使えば、Windows 2000からVistaまで、ほかLinuxだろうとMax OS Xだろうと、ネットワーク経由で再生できてしまうのですから。
録画も、UNIX系のほうがラクかもしれません。コマンドラインから次のように1行打つだけで録画できてしまいます。(888LのIPアドレスを192.168.0.88と仮定)
% wget 'http://192.168.0.88:8001/stream.mpg?enc=1&src=0'
これだとCtrl+Cを叩かないと録画を終了できないので、もうちょっと工夫する必要はありますが、こんな感じでcronに入れておけば予約録画も余裕です。
さらに! ソニーのロケーションフリーで言うところの「AVマウス」機能、すなわちリモコンの赤外線信号を発信して外部接続機器を遠隔操作する機能、これもHTTP経由でできてしまうのです。
ロケフリでも「学習リモコン機能」を使えば任意の赤外線信号を発信することはできますが、やはりHTTPのリクエストを投げるだけで赤外線信号が出るというシンプルさ(マニアックさ?)がうれしいです。
私が監訳させてもらったオライリーの『PSP Hacks』でも、「ネットワーク越しで赤外線信号を発信できる機械」を使ってPSPで家のいろんな機器を遠隔操作しよう、というhackがありました(日本語版だとHACK#45、p.232~)。
これ、原書では赤外線信号の発信にWACI NXという機械を使ってたんですが、日本では簡単には手に入りそうもないシロモノでした。かといって似たような機械が手軽に売られているようでもなかったので、このときはまぁ、日本の読者さんには「実践は難しいけど、こんなこともできるよという読み物として面白がってもらえれば」ということにして、そのまま翻訳しただけにしてしまいました。
ところが日本でも、DNT-888Lを使えばほぼ同様のことができたんです。しかも圧倒的にお安く。(WACI NXは業務用なので800ドルくらいでした) 知ってれば脚注にでも入れておいたのになあ...。悔やまれます。
というわけで、HTTPを介してMPEG2は吐き出すわ、赤外線信号は送れるわと、実に希有な機械に仕上がってるのがこのDNT-888Lです。
しかしこれらの機能のほとんどが「メーカーサポート対象外」ということもあって、仕様すらほとんど公開されていません。(赤外線関係はそもそも「隠し機能」扱いで、カタログや説明書では存在すら謳われていません)
それゆえに、ハードウェアの備え持つスペックの割に(公式には)できることが少なく見えてしまい、結果「ただのコストパフォーマンスの悪い機械」として商業的に失敗してしまったという、なんとも不幸なヤツでもあります。
ただまあ、機械の出来に問題はないかというとそうでもないようで、特に最初の頃のファームウェアの出来はひどかったようです。バグを直すのにも何ヶ月もかかったり。今でも不安は残りますし、今後はもうファームウェアのアップデートなんかしてくれないでしょうし、メーカーが買収されたりして開発スタッフがほとんど辞めてしまったという噂も聞きます。
こうなるともはや後継機が出ることは考えにくく、ひっそりと一代限りで消えていくことになるのでしょう。3~4代もつづけば内容も洗練されて、実用的な機能で1万5千円くらいの普及版とか出たかもしれないのに...残念です。
とはいえこの機械、マニアックに叩けばなかなか味わい深い存在。変な機械が好きな方は是非ともお試しあれ。